こんにちは「大量調理の伊達メガネ」です。
今回は、大量調理マニュアルの中心温度についてお話します。
大量調理では多くの人が同じ調理で用意された食事を食べます。
たくさんの人が食べる料理に問題があった場合はどうなりますか?
100人に提供していれば?
1000人に提供していれば?
問題があれば多くの人に影響しますので、大量調理は「安心安全」が最も重要となってきます。
その「安心安全」を守るために大量調理マニュアルがあって、そこに加熱時の中心温度についても記載されています。
今回は実際の現場での対応も含めてお伝えしますので、参考にしていただければと思います。
それから調理の温度管理だけでなく給食調理員の作業の流れを知りたい方は「給食調理員の一日の流れってどんな感じ?学校や保育園の給食の裏側を覗いてみよう!」で紹介していますのでご覧ください。
大量調理マニュアルの概要
まず、このマニュアルが何のためにあるのかお話します。
大量調理マニュアルの正式名称は「大量調理施設衛生管理マニュアル」と言います。
長ったらしい名称なので、現場では「大量調理マニュアル」と短く表現していることが多いです。
大量調理マニュアルは1997年に制定されて食材の選び方に調理の方法、それから提供方法もしっかりカバーされています。
これがあるから食中毒のリスクを減らして、みんなが安心して食事を楽しめるんです。
作成のきっかけは腸管出血性大腸菌O156の食中毒の事件です。
その後に何度か改正されていますが、大きな改正といえば2006年のノロウイルスの大発生をきっかけにノロウイルス対策が加わったマニュアルに改正されました。
大量調理マニュアルっていうのは、たくさんの人に安全でおいしい食事を提供するためのガイドラインなんです。
ガイドラインとは社会の状況(食中毒のリスク)によって変化していくんですね。なので、常に最新の情報を取り入れた対策が必要となってきます。
ちなみに最終改正は現時点(2024年)では、2017年(平成29年)となります。
大量調理マニュアルの中心温度の目的
なんで中心温度の基準が明確に定められたかというと、実はこれまでは一部の施設で食中毒の発生が報告されていたんです。
昔を知る人から聞いた話ですが、1997年以前では明確なルールがなかったので温度計の使い方が間違っていたり、そもそも温度を測っていなかったり。
食中毒の原因で多いと考えられていたのが温度管理です。
それに昔は食中毒の報告も曖昧にしていたことが多かったようです。なので実際の食中毒件数はデータより多かったのではというのが昔の人の話です。
大量調理マニュアルの目的は、もちろん食中毒のリスクを減らすことです。
大量調理マニュアルが制定されてからは中心温度計により加熱温度が確認されたことから加熱不十分であることはほぼなくなり食中毒の発生件数が大幅に減りました。
つまり大量調理マニュアルに従って調理を進めることは、食中毒のリスクを減らす効果があるということです。
従わない理由はないですよね?
大量調理マニュアルと中心温度の測り方
さて、ここからが本題です。
中心温度を測るといっても、ただ測ればいいわけではありません。正確に測定しなくては意味がないんです。
中心温度を測る際のポイントは大きく分けて3つあります。
- 中心温度計の使用方法
- 中心温度の計測の実践方法
- 温度記録の重要性と記入例
それぞれ見ていきましょう。
中心温度計の使用方法
まずは中心温度計の使い方です。
- 計測位置:温度計のセンサー部分(先端)を食材の一番厚い部分(中心)にしっかり刺します。
- 消毒:使用前後には必ず消毒。違う食品を測るときも必ず消毒して交差汚染を防ぎます。
- 校正:定期的に温度計の精度をチェック。必要なら校正も忘れずに。
中心温度の計測の実践方法
家庭では食材の見た目や中の状態を基本的に見て判断すると思いますが、「給食の大量調理」では中心温度計で加熱の状態を見ています。
じゃあ、どこまで温度が上がっていればいいの?って話ですよね。
大量調理施設衛生マニュアルにはこう書かれています。これは「焼き物や揚げ物」についてです。
調理の途中で適当な時間を見はからって食品の中心温度を校正された温度計で3点以上測定し、全ての点において75°C以上に達していた場合には、それぞれの中心温度を記録するとともに、その時点からさらに1分以上加熱を続ける(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90°Cで90秒間以上)
大量調理施設衛生管理マニュアルより引用
実際の現場では、特に「肉や魚」に神経を使っています。
焼き物や揚げ物は、状態や方法で加熱にムラができる事もあり食材の厚さや焼き加減で選んで必ず3点以上測定します。
それからノロウイルスも考慮して、たとえ汚染のおそれが少ないものでも中心温度が85度以上でOKとする職場が多かったです。
煮物に関しては鍋や釜の中心付近で計測することが多かったです。煮物なので「食材が小さく」「沸騰させて煮込む」ので全体の中心温度が上がっていれば問題ないんです。
沸騰させるので中心温度で計測すれば100度近くになるでしょう。
ちなみに大量調理衛生管理マニュアルには煮物や炒め物についてはこう書いてあります。
調理の途中で適当な時間を見はからって、最も熱が通りにくい具材を選び、食品の中心温度を校正された温度計で3点以上(煮物の場合は1点以上)測定し、全ての点において75°C以上に達していた場合には、それぞれの中心温度を記録するとともに、その時点からさらに1分以上加熱を続ける(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90°Cで90秒間以上)。なお、中心温度を測定できるような具材がない場合には、調理釜の中心付近の温度を3点以上(煮物の場合は1点以上)測定する。
大量調理施設衛生管理マニュアルより引用
食材ごとで測定することは少なかったです。
食材の大きさによって測る場合もありますが、ほとんどの場合は計測するほどのサイズではないです。また、煮物は煮込むので100度近いですし、炒め物は肉などしっかり火を通したい食材から必ずします。
計測時に85度以下であった事は一度もないです。
中心温度記録表の記入例
中心温度記録表とは、調理された食品の中心部分が適切な温度に達しているかを記録するための表です。
食品の中心温度を測定することで、十分に加熱されているか、あるいは冷却が適切に行われているかを確認できます。
中心温度が適切でない場合、食中毒の原因となる細菌が残っている可能性があります。
記録表は、調理後の温度確認の証拠としても活用され、万が一のトラブル発生時にも重要な資料となります。
記録表の必須項目とその理由
中心温度記録表には、いくつかの必須項目があります。
これらを正確に記入することで、調理過程の安全性を確保することができます。
- 日付と時間:いつ調理が行われたかを確認するために必須です。
- 食品の種類:どの食品に対して中心温度を測定したかを記録します。
- 調理温度:調理中に到達した最高温度を記録し、十分な加熱が行われたかを確認します。
- 測定者の名前:誰が測定を行ったかを記録することで、責任の所在を明確にします。
- 備考欄:特筆すべき事項があれば記入します。例えば、特に注意が必要な食品や調理過程での異常があればここに記録します。
これらの項目をしっかりと記入することで、調理現場での衛生管理が徹底され、食品の安全性を保証することができます。
中心温度記録表の具体例
次に、実際の中心温度記録表の記入例を見てみましょう。
記入の際には、正確さと詳細さが求められますが、それが難しいことではありません。以下の例を参考に、しっかりとした記入を心がけましょう。
基本的な記入例
日付と時間: 2024年8月18日 12:30
食品の種類: 鶏肉のグリル
調理温度: 75°C
測定者の名前: 山田 太郎
備考欄: 鶏肉が均一に加熱されるよう、オーブンの設定を確認しました。
シンプルであっても必要な情報がすべて含まれていることが重要です。
中心温度が75°Cに達したことを確認し、記録することで、鶏肉が十分に加熱され、安全に提供できる状態であることを証明できます。
それから温かいものは、加熱時の計測が重要ですが和え物など冷ますものは冷却時の温度管理も重要です。
これについては「大量調理の和え物を成功させるための温度管理ガイド」で詳しくお伝えしていますのでご覧ください。
まとめ:加熱時の中心温度は85℃以上で安心
中心温度の基本は75℃以上になりますが、ノロウイルスを考えて実際の現場では85℃以上で対応している職場がほとんどです。
それからカキフライなど、ノロウイルスのリスクが高い食材は作業者だけでなく現場責任者や栄養士も含めて確実な計測と管理をすることが多いです。
実際の現場で仕事をしていると食中毒のリスクを0にする事は難しいのではと感じています。なぜなら提供までに多くの人が関わり時間もかかります。
仕入れ先の対応、食材の納品時や管理方法、作業者の状態や下処理に調理、それから運搬時や提供する場所に提供する人などなど、考え出したらキリがありません。
なので、確実な対応と記録をすることが利用者さんだけでなく自分たちを守ることにも繋がります。
最後にお伝えしたいことがあります。
それは果物についてです。
ほとんどの食材は加熱して提供しています。ですが、果物は加熱せずに提供します。そして最新の大量調理マニュアルでもこのように追記されています。
特に高齢者、若齢者及び抵抗力の弱い者を対象とした食事を提供する施設で、加熱せずに供する場合(表皮を除去する場合を除く。)には、殺菌を行うこと。
大量調理施設衛生管理マニュアルより引用
つまり、生の果物の提供に関してのリスクを無視できないということです。
果物の取り扱いについては「【大量調理施設衛生管理マニュアルの果物消毒】実際の現場の方法」でご紹介していますので、ぜひ見ていってね。